明治神宮内苑の森づくりをモデリングする

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人為的につくられた「自然」

明治神宮内苑を歩くと、何か手つかずの原生林が残っているような感覚を受ける。しかし、実はこの森、1912年の明治天皇の崩御後に、人為的につくられたものである。1920年に鎮座祭が執り行われてから、まだ高々100年程度しかたっていないものである。それ以前は、「畑地や草原や沼地の荒れた土地」にしか過ぎなかった、とのことなのである。

明治神宮内苑の森のグランドデザイン

「造られた森、明治神宮の森に学ぶ」によると、この森づくりのグランドデザインは、以下のようなものであった。

  • 東京付近の気候風土に適し、周囲からの危害に耐え、永く健全な育成をし得るもの
  • 林苑構成後は、なるべく人の手によって植栽や伐採は行わず、永遠にその林相を維持できるもの
  • 林相は森厳で、神社林としてふさわしいものであること
    (引用: 〚造られた森、明治神宮の森に学ぶ〛 (http://www.chiba-shinrin-instructor.com/kaiinsenyo/data/hiru090521.pdf)

上記の条件を満たすのは、カシ、シイ、クスノキなど常緑広葉樹を主木とする照葉樹林をつくることであった。この結論に至ったのは、造園技師である上原敬二氏が大阪にある仁徳天皇陵古墳を調査で訪れた時の体験が大きな影響を与えたという。中沢新一氏の『アースダイバー 東京の聖地』によると、「自然状態に放置された照葉樹林の底しれぬパワーを、まざまざと見せつけられた」という強烈な体験をしたとのことである。

森が完成へと至る4つのステージ

この森は、「明治神宮御境内林苑計画」という計画書を元につくられることになる。この計画書では、今後、森が4つのステージを経て、永遠に「主木が人手を介さず、自ら世代交代を繰り返す」森に成長していく予想図が記されている。

file

第1ステージ

在来樹種であるアカマツやクロマツなどのまつ類に加えて、全国から寄進された樹木の中で背の高いものを植え、次の世代の樹木が育つまでの「仮設の森」とする。また、同時に、ヒノキやサワラ、スギ、モミなどの針葉樹と、カシやシイ、クスノキなどの常緑広葉樹を植樹する。

第2ステージ

成長の早い針葉樹類が伸びて、まつ類を圧倒していく。まつ類は数箇所に点在するのみとなる。

第3ステージ

広葉樹がだんだん育ち、針葉樹と広葉樹が拮抗する。まつ類は、まれにみられる、という状態になる。

第4ステージ

広葉樹が主木となり2世代目の木も育ち益々広がっていき、それ自身が世代交代していぃく状態となり、森として完成する。

明治神宮内苑の森づくりのタイミング図

前述した4つのステージを、ソフトウェア開発で使うUML(Unified Modeling Lnaguage)のタイミング図で表現してみようと思う。

タイミング図にするにあたって、ひとつのステージを50年とすること、森の中の勢力として、「優勢、中間、劣勢」にわけるなど、非常に単純化しているが、だいたい、どういったことを構想していたか、ということは伝わるのではないかと思う。

file
PlantUmlのソースコードである。

@startuml
title "明治神宮内苑の森の変遷予想"
'title "Prediction of changes in the Meiji Jingu inner garden forest明治神宮内苑の森の変遷予想"
robust "Pines まつ類" as pines
robust "Needle-leaved Trees 針葉樹類" as needles
robust "Broad‐leaved Trees 広葉樹類" as broads
concise "The Stage of the Forest 林相" as stages

pines has 優勢,中間,劣勢
needles has 優勢,中間,劣勢
broads has 優勢,中間,劣勢

@0
stages is 1st: 仮設の森
pines is 優勢: 在来樹
needles is 劣勢: 植樹
broads is 劣勢: 植樹

@50
stages is 2nd
pines is 中間
needles is 優勢
broads is 中間

@100
stages is 3rd
pines is 劣勢
needles is 中間
broads is 中間

@150
stages is 4th: 森の完成
pines is 劣勢
needles is 劣勢
broads is 優勢
@enduml

不自然な「自然」

このような、人為的につくられた明治神宮内苑の森は、本来の「自然」とは、ちょっと違う「自然」としてできあがっている。全国から寄進された樹木を植えた、ということもあるのか、植物の多様性が通常の「自然」ではありえないほど高い、とのことなのである。現在は、当初の予想より早く進み、森の完成期(第4ステージ)の入り口まで来ている、とのことである。まだ、この壮大な実験の答え合わせは、まだ先のことなのである。

唐突であるが、落合陽一氏がいう「デジタルネイチャー(計算機自然)」も、本来、この世の中にない「自然」をつくり出す、という点では、明治神宮内苑の森との差はない。今後の未来を見据えて、「デジタルネイチャー(計算機自然)」を明治神宮内苑の森つくりと同じ精神でつくっていく、といったこともありえる話だと思った。

最後に

中沢新一氏の『アースダイバー 東京の聖地』をきっかけに、この明治神宮内苑の森の成り立ちを知ることができた。「自然」を100年200年のスパンでつくっていく、というかつての日本人の試みに感嘆する。そして、それを自分のできる表現方法(UMLモデリング)で表現していく試みを行った。実は、同書からインスパイアされて、もうひとつモデリングしたいことがあった。それは、明治神宮の内苑と外苑という二部構成という成り立ちである。この構成は、深い思想によって考えられているのである。これも、いつか機会あればやってみたいと思う。

参考文献

ナショナル・ジオグラフィック 【日本の森】 日本人がつくった自然の森――明治神宮「鎮守の杜に響く永遠の祈り」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20110617/274594/?P=1

〚造られた森、明治神宮の森に学ぶ〛
http://www.chiba-shinrin-instructor.com/kaiinsenyo/data/hiru090521.pdf

A 150 Year-Project: Meiji Shrine Forest in Central Tokyo
https://www.japanfs.org/en/news/archives/news_id027807.html

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